「3・11後の科学と社会一福島から考える一」
主催:日本学術会議第一部
7月13日、福島市の福島銀行本店で公開シンポジウム「3・11後の科学と社会一福島から考える一」(主催:日本学術会議第一部、第一部福島原発災害後の科学と社会のあり方を問う分科会共催:福島大学「うつくしまふくしま未来支援センター」後援:(財)日本学術協力財団、福島銀行)が160名の参加を得て行われた。
「(日本学術会議)第一部では、第22期において、「第一部福島原発災害後の科学と社会のあり方分科会」を組織し、福島原発事故及びその処理・対応で揺らいだ科学のあり方について議論してきた。同分科会では、すでに7回ほどの会合を持ち、平成 25年1月12日には、「科学者はフクシマから何を学ぶのか?一科学と社会の関係の見直し」と題するシンポジウムを開催し、国の科学政策決定にどのように科学者が関与すべきかについて検討を重ねている。その中で、当事者である 「福島との対話」の必要性が強く意識されるに至つた。以上のような経過から、 今般第一部および第一部福島原発災害後の科学と社会のあり方を問う分科会 が主催となり、福島大学うつくしまふくしま未来支援センターには共催としてかかわっていただき、3.11から2年以上を経過した今、東京電力福島第一原子力発電所の災害のあり方をあらためて問い直し、科学者に何が問われているのか、科学者がすべきこと、なしうることは一体何であるかを、福島市内を開催地とする、文字通り「福島から考える公開シンポジウムとして開催すること を企画した。」趣旨
まず、入戸野修氏(福島大学長)、大西隆氏(日本学術会議会長、慶應義塾大学大学院特別招聘教授)の挨拶が行われた。
第1部「福島で何が問われているか」では、「放射線健康影響と学者の社会的責任ー3.11後の行動を中心に」として島薗進氏(日本学術会議第一部会員、上智大学神学部特任教授・同グリーフケア研究所所長)の科学者の責任を検証報告が行われた。
まず、放射線防護をめぐる科学者・専門家の信頼失墜について述べ、次に日本学術会議の放射能の健康への影響と防護分科会が行ってきた問題点を指摘した。
発災の7月の日本学術会議の講演会「放射能を正しく恐れる」では科学者が確かな知識をもっていて、一般市民は知識が欠如しているという「欠如モデル」をもとに行われたが、問題は定説とはみなされる段階に無い「放射能安全仮説」というものを、危険性を指摘している仮説の紹介せず、正しい情報として権威づけ、知識の欠如した一般市民の不安解消することを行ったことなどに現れているという。
このような科学者の流れが、福島県の「健康管理調査」では、従来の政府の被爆線量基準が年間1ミリシーベルトに対して、福島県では被爆線量基準を年間20ミリシーベルトとするという案をつくるなどの動きにつながったという。
「東京電力福島第一原子力発電所事故における避難者の現状と復興に向けた課題」として丹波史紀氏(日本学術会議特任連携会員、福島大学行政政策学類准教授)は調査結果と課題を述べた。
まず、福島大学の双葉8町村住民実態調査(2011/9~)から被害者の現状として広域避難、避難の長期化、避難生活の多様化と孤立をあげ、自然災害の想定だけでは解決し得ない課題があり、原発災害による賠償の問題を指摘した。
賠償だけで補償できる損害も一部だけであることも問題な上に、環境・生命・健康など賠償だけでは補償できない損害についてどう対処するのか、不十分である。
さらに、長期化する全町避難における仮のまち・町外コミュニティについても、住民の計画参加や受け入れ自治体との問題などが多くあり、生活再建とコミュニティ再生も道筋がたっていない。
最後に、原発事故からの復興における大学・研究者の役割として、「調査公害」、科学者・研究者が調査結果に責任をもち続けられるか、そして、調査研究が有効な現実的政策に寄与できるのかなどの問題点を指摘した。
広渡清吾士氏(日本学術会議連携会員、専修大学法学部教授)は個人の尊厳、幸福追求権及び公共の福祉を規定した13条、生存権と、国の社会的使命にについて規定した25条の侵害であり損害賠償、業務上過失にあたるとコメントした。
更に、特定の利害にコミットしてきた科学・学問の問題であり、これを科学者・学者全体は責任をどうもつのかが問われている。
また、 市民に答える科学・学問として市民と科学者の集団的討議と分野を超えた科学者の連携、具体的には全体として知識を提供して、市民が抱える問題をコミュケーションの中で共に考える科学・学問のあり方が必要だという。
第2部「福島で何ができるか」では、「震災からの再建のための取組み態勢のあり方と、公論形成の場で取り組むべき重要課題」として船橋晴俊氏(日本学術会議連携会員、法政大学社会学部教授)が述べた。
震災からの再建のための取組み姿勢のあり方は、東日本大震災は既存の枠組みでは対応できない、特に福島での原子力災害の対応は先例に囚われない取組み態勢が重要で、法に関しても「創造的行為としての法」が必要ではないか。
また、「原子力複合体」という政財官学メディアなどが複合した利益集団が自己利益のために日本の決定を歪めているので、これを変えるためには、公論形成の場で取り組むべきなのは公共圏の豊富化、公論による決定の実施、「原子力複合体」の規制などであるという。
そのために公論形成の場で取り組むべき重要政策課題として低線量被ばくの影響問題、社会契約としての線量基準、被害構造の把握と補償のあり方、生活再建の複数の道と帰還問題、二重の住民登録、健康手帳の機能も有する被災者手帳を述べた。
「風評被害問題と食品中放射性部質検査態勢」として小山良太氏(日本学術会議特任連携会員、福島大学経済経営学類准教授)は調査結果から対策を述べた。 まず、福島原発事故の現状と課題として、原子力災害による損害調査不足としてはフローの損害は調査されているが、ストックの損害、つまり生産インフラや農地などの損害調査不足であり、また、風評被害に関係する検査態勢や放射性部質検査の問題も大きいという。 そのためには、検査態勢のめたの法令整備や放射能汚染対策と研究成果の一元化をはかり、「風評」問題対策とそての検査態勢の体系化が必要と述べた。 次に、放射能汚染対策として法令整備、3段階の農地の放射線量分布マップと検査態勢の体系化、作物ごと移行リスクこどの放射能汚染対策の確立、原子力災害からの復興のための一元的な研究機関・組織の設置を語った。
今井 照氏(福島大学行政政策学類教授)は行政を始めとする縦割りに対して、統合的仕組みと今までと違う公論形成・政治的合意形成が必要で、そこには大学・科学者の責任もあるとコメントした。
総合討論では、鬼頭秀一氏(日本学術会議連携会員、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)が問題提起「福島の被害、今後の復興に対して学の役割は何か」として問題点を指摘して、政府が抜本的政策枠組みが提示できない中、「学」の役割が問われており、「学」が貢献すべき新たな計画論、つまり、「コミュニティ」「文化」を地域に限定しないあり方を今までの研究の蓄積をもとに検討し、新たな復興の枠組み・モデルを提示することなどを述べた。
中井勝己氏(福島大学学長特別補佐、うつくしまふくしま未来支援センター長)は、県民・住民の願いは普通の生活を取り戻したいであり、そのために住民主体の計画をサポートしていきたい。
大西隆氏(日本学術会議会長、慶應義塾大学大学院特別招聘教授)は、岩手、宮城とは違い、復興がはじまってない福島の問題は容易ではないが、 原発のあり方、 再生可能エネルギーも含めて復興を検討していきたいと述べた。そして、次の災害に備える必要があると。
小林良彰氏(日本学術会議副会長、日本学術会議第一部会員、慶応義塾大学法学部教授)は、福島では今なお被害が出続けているし、原発事故もふくめて想定外ではなく起きるといわれて起きたことである。
そして、日本学術会議にもこのことに責任あり、これは、工学だけへの批判だけでなく、人文科学も含めて批判をしていき、日本学術会議の役割を果たしていきたい。
船橋晴俊氏(日本学術会議連携会員、法政大学社会学部教授)は討論型「タウンミーティング」型のまちづくりについて述べた。
これは通例・先例がなくても、予算措置をして生活実体調査を当事者型で行い、その調査に基づいて討論型「タウンミーティング」でまちづくりをしていくものだという。
閉会の辞として佐藤学氏(日本学術会議第一部部長、学習院大学文学部教授)がマネーとテクノの時代にあって学術で復興に寄与したいと述べた。
今回は、科学者、学者、学術会議、大学も文系、理系をとわず責任があることを認めて、変えるための公論形成などの具体的提案がなされた。
また、日本学術会議と市民が分立している現状だが、日本学術会議が業界団体ではなく政府と市民のコーディネーターとして役割を果たして復興に寄与していきたいとのコメントなども得られた。