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潜入体験ルポ/東電福島第一原発事故「賠償金算定」驚愕の実態

 

 

異常な守秘義務、不条理なマニュアル、頻発する作業ストップ…

2013年4月24日(水)0時0分配信 週刊朝日

 

福島第一原発事故から2年以上たったというのに、放射能汚染水は相変わらずだだ漏れ。東京電力の補償作業も遅れに遅れている。それもそのはず、都内で密かに進められている作業は、むしろわざと遅らせているとしか思えない状況だった。実際に働いてわかった驚愕の実態をルポする。ジャーナリスト 宮田賢浩


東京都江東区、りんかい線の国際展示場駅で降りると正面に、コミケ(コミックマーケット)などの会場として有名な東京ビッグサイトがある。そのすぐ手前の20階建てオフィスビル「有明セントラルタワー」が、“仕事”の現場だった。

 私が派遣会社の派遣社員として、この現場に勤め始めたのは、昨年の初夏のことだった。午前9時から午後6時まで、実働8時間で週5日、時給1100円。

 仕事内容は、福島第一原発事故をめぐる東京電力の補償業務のデータ入力である。具体的には、原発事故による避難慰謝料と休業補償について、住民の家庭ごとにまとまった請求書などの書類ファイルを東電の社内ネットワークから検索し、それをもとにエクセルにデータを記入する──という仕事だ。

 ところが、出勤初日の研修の時点から浮かんだ「疑問」は、1カ月もしないうちに「疑惑」へと変わっていくことになった。

 派遣会社による研修は、まず「守秘義務」を延々と説くことから始まる。個人情報を扱う仕事であるから、確かに重要なことだ。オフィスへの携帯電話の持ち込みはもちろん、ペンや紙類も規制された。

 ところが、彼らが要求する「守秘義務」はそれにとどまらなかった。仕事内容をオフィス以外で話すことは厳禁、その上、相手が肉親であろうが誰であろうが、オフィスの所在地でさえ明かしてはならない──というのだ。文字どおり「秘密の業務」、まるでCIAやMI6のスパイ並みの厳重さである。

 

ならば、さぞかし高度な業務かと思いきや、実務研修は「マウスの操作」から始まった。

 派遣社員は、20人前後を1班として1フロアに12班、総勢二百数十人が縦約20メートル、横約50メートルのだだっ広い部屋に配置され、それが数フロアにわかれているという大所帯だった。とにかく手当たり次第に雇ったのか、「フォルダ」の意味すらわからない、というおばちゃんも大勢いた。パソコンを操作してファイルを開く、という作業を全員がのみ込むのに30分はかかっただろうか。

 この基礎研修の後も、作業内容が変わるごとに1日から数日の研修があった。そこで強調されるのが、「マニュアル遵守」だった。とにかくマニュアルどおりに進行するよう繰り返し求められ、自らの判断を決して入れないように、と注意された。しかし、いざ本作業になると、このマニュアルから次々と不都合が噴き出したのだ。

 たとえば、補償請求には「被災証明書」、もしくは「住民票」が必須とされたが、これらの書類と手書きの請求書の内容が違うことがある。家族構成が違う、旧漢字と常用漢字で違っている、生年月日などの記載ミス、未記入項目がある、旧姓になっている、そもそも住民票がなくて戸籍謄本だったり、運転免許証だったり、母子手帳だったり……。

 こうした想定外の事態が起きると、まずはその場で、派遣会社の社員が会議する。それで決まらなければ、東電社員と協議する。これが早くて数時間、長いと数日もかかり、その間、作業は中断される。しかも、午前の方針が午後には正反対に改正、まさに朝令暮改が日常茶飯事で、そのたびに派遣社員から失笑が漏れた。

 なかでも驚いたのは、記入された住所に「大字」「字」が入っていないだけで、無効にするかどうかを巡って、数日間もめたことだ。最終的に、これらはそのまま作業することになったが、たとえば「福島県」や「双葉郡」が抜けた書類は最後まで無効のままだった。その理由を派遣会社の社員に問うと、

「(その町名が)他県にもあるかもしれないと、上から(東電から)言われている」

 という常軌を逸した答えが返ってきた。

 

1日の作業を
4日でやる会社

 こうした不条理を東電社員に訴えようとすると、フロア長の派遣会社社員から、

「東電の人にはむやみに話しかけるな」

 と強い指導が入った。まるで派遣会社の社員は植民地の役人で、われわれは奴隷のような関係であった。

 その宗主国の人、東電社員は一流大学を出たエリートであるがゆえだろうか、机上の空論で作ったマニュアルを一字一句違わずやることを、天の声のごとく指令し、一切の疑問や口を挟むことを許さない。研修書類の巻頭に掲げられた〈ご被害に遭われた方々の目線に立った「親身・親切」な賠償を直ちに実現し……〉という言葉が空しく響く。

 作業を進めるにつれ、補償をわざと遅らせようとしているとしか思えない東電と、それに対して何もしない当時の政権党、民主党に対して怒りが込み上げてきた。事故から1年以上が過ぎているのに、現住所が「避難所」という人があまりにも多いのだ。特に、大正一ケタ生まれの、もう100歳に手が届こうとするお年寄りの現住所が「○○高校の理科室」や「体育館」という住民票を見て、終の棲家がここか──と思うと悲しくて手が震えた。

 一つの作業項目は長くて1週間、短いと1日で終わり、また研修、そして作業と続く。ただでさえ効率が悪い上、なにか起きれば会議で中断され、おまけにエクセルのソフト不具合やサーバー不具合で半日から数日、作業が止まることもざら。さらには、作業のためのデータがそろっていなくて進められない、という事態も頻発した。

結局、私が在籍した5カ月間で、“有意義”な仕事をしたのは全就労時間の3分の1程度だったのではないか。事実、作業が中断するたびに、派遣社員の間から「1日でできることを4日でやる会社」という声が囁かれ始めた。

 その後ろめたさのせいか、体力的にはラクな仕事だったが、辞めていく人が相次いだ。派遣会社は人員増に躍起になっていて、昨夏には、われわれに対して、誰かが面接に来てくれたら5千円、契約したら3万円という破格の“紹介キャンペーン”まで提示。昨年9月ごろには、ほかの派遣会社も含めて人員は2千人ほどにまで膨らんだ。単純計算すれば、派遣会社がわれわれに支払う人件費だけでも月3億~4億円。東電につぎ込んだ税金が、こんな形で使われていたのである。

 人員増に比例して、仕事内容はずさんさを増した。

 たとえば、被災後、時間がたってからの慰謝料請求の書類には、避難先の住民票が添付されているが、これには別途、震災時に被災地に住んでいたという証明が必要となる。

 マニュアルには“従前住所を記載”とあるが、住民票には「従前住所」とか「転出元住所」とか「以前の住所」とか、自治体によって呼び方が違っていた。そのためマニュアルにない文言をどう解釈するかで、また何日も潰れるのだ。

 コントのようなことを真顔で相談する派遣会社の社員たち。私はたまりかねて、

「それぞれの役場に電話して聞けば、1分で答えが出ますよ」

 と提案したが、あっさり無視された。

 

途中でいいから
終了して下さい

 そして秋になり、決定的な“事件”が起きた。「就労不能損害請求」を処理する作業をしていた時のことだ。これは震災でもらえなくなった賃金を補填する請求で、震災前の収入の平均をもとに計算するのだが、マニュアルには、指定のPDFファイル以外からの転記禁止となっていた。

 そのファイルを取り出し、数字を計算してエクセルに入力すると、なんと、それが正しい数字なら結果欄に「○」が、1円でも違うと「×」が出るのだ。これは、誰かがあらかじめ、ちゃんと計算して正解を出している、ということにほかならない。ならば、その計算をした人間が、その時に書き込んでおけばよかっただけの話である。

 その「誰か」とは、恐らく東電社員だろう。PDFファイルにはその東電社員と思われる、この請求書類をもともと計算し、決定した担当者の名前まで入っていた。まるで出題者が東電で、われわれに「この数字は、どうやって出したでしょう?」とクイズを出しているような仕事だった。

 こうしたことだけでもストレスの多い仕事だったが、ある時、それすら吹き飛ぶ決定的な書類を発見してしまった。

 資料の中にあった「同意書」というファイルを、たまたま開くと、なんと、計算で「○」となった数字の金額で同意する──という請求者の署名付きの書類があり、しかも、その支払日が昨年1月から8月。つまり、もうとっくに支払いが済んでいる案件だったのだ。

 支払い済みの計算を、なぜもう1回やるのか。研修資料には「過去請求書のPDFから、データ化を行う」という一文があった。過去の請求資料をデータ化するというのが目的だったとしても、あまりにも時間とカネと労力がかかっている。これは壮大な無駄ではないのか。耐えきれず、派遣会社社員を問いただすと、

「見てはいけない資料を見た!」

 と逆ギレされた。しかし、不信感は私だけではなく、オフィスの一部で確実に漂っていた。

 

これに続く仕事はさらにひどいものだった。生年月日を調べて転記する、という作業だったが、そもそも年齢で補償金額が変わることはない。元資料を見ると、東電とかかわること自体が嫌で、委任状添付で弁護士に任せているような人たちを分別したものだった。

 当然、それらの人たちに委任状以外の資料は何もなく、従って生年月日など探しようもない。まれに生年月日を手書きで記した書類が含まれていて、その取り扱いを巡って何度も会議が開かれ、結局、2日を費やしてようやく方針が決まり、本作業となった。

 二百数十人分の表をスクロールさせて書類の有無を確認し、日付と名前をコピーして貼り付ければ、10分もかからず作業終了となるのだが、結局、コピーは禁止され、1時間以上かけてキーボード入力した。それでも、一日の仕事はこれで終わりである。

 これらの仕事が「捨て仕事」、言い換えれば、やってもやらなくても、正解でも不正解でも関係ない、単に派遣社員に対する“アリバイ工作”だと確信したのは、ある作業の終了時間に、

「仕事の途中でもいいですから上書きして終了して下さい」

 と言われた時だ。やり残した資料はどうするのだろう? と不思議だったが、数日過ぎてそのファイルを開けてみると、そのままの状態で残っていたのだ。

 多くの派遣社員が年末で契約終了となったが、最後の週は仕事がなく、エクセルとワードの“研修”だった。

 

社内ネットには
名簿や原発情報

 最後に、もう一つ、私が気付いた危険で重大な欠陥について触れておきたい。

 盛んに節電を呼びかけていた昨夏、オフィスは昼でもブラインドを下ろして、電気を煌々と灯していた。外の光を入れて、省エネしないのかと問うと、

「機密保持のためです」

 という答えが返ってきた。

「外から覗かれて個人情報が盗まれる恐れがあると、上から言われている」

 というのだ。

 オフィスの片側は海、もう片側は、はるか2キロほど先の高層マンションしかない。あまりにも現実からかけ離れた感覚だ。

 ところが、その一方で、まったく無防備な面があった。作業用のパソコンを立ち上げると、すぐに無線LANのソフトが起動し、電波がいくつも表示されていたのだ。モバイルルーターなどの電波である。やろうと思えば、ワンクリックでこれらとつなぎ、いくらでもデータをコピーできるではないか。

 さらに危惧すべきことは、ここから東電の社内ネットワークにつながることだ。われわれ派遣社員も使っていた社内ネットワークの項目を見て驚き、怖くなった。外部につながらないという安心感からなのか、社員名簿から原子力設計情報、管理部、各発電所の情報、高圧線管理など、あらゆる分野の項目があった。

 さすがに、そこから先は専用パスワードが必要なため、内容を見ることはできなかったが、優秀なハッカーであれば、簡単に入り込めてしまうだろう。

 

これは、一民間企業の情報ではなく、国の根幹を揺るがす情報である。窓の外には異常なほど神経をとがらせながら、デジタルデータのバックドアは開きっぱなしという、あまりにお粗末な状態なのだ。

 その後、伝え聞く話では、作業現場は今年に入って再び増員傾向にあるという。一時は、ようやく始まった不動産賠償の手続きに関する作業にも着手したが、すぐに中止されたという。東電から派遣会社へのカネの流れは不明だが、派遣会社だけが一方的に利益を上げる構図だとは考えにくい。

 こうした作業の内容、意図などについて派遣会社に質問したところ、

「先方と守秘義務契約を結んだ上で業務を推進しているため、いずれのご質問についても回答しかねます」

 とのことだった。

 一方、東電はこう答えた。

「賠償業務については、請求の受付や内容の確認のために委託契約をしています。個人情報などを取り扱うので、委託先と契約を結ぶにあたって、守秘義務を契約条件に織り込んでいることは事実です。作業手順などは当社で作成しています。迅速かつ的確な賠償に向けて業務を進めていますが、具体的な内容、詳細については回答を差し控えます。また、社内ネットワークにおいて委託の社員が業務に関係ない情報を閲覧できるようなことはなく、セキュリティー管理は徹底しています。無線ランから接続できる環境にもありません」(広報部)

 復興資金がどう使われているのか。それを透明にしていかない限り、原発事故の被害者の苦しみは終わらないだろう。東電と派遣会社の「補償業務」の実態は、もっと明らかにされなければならない。

「東電派遣業務」に関する情報を宮田氏のブログまでお寄せください.(http://denkocyan.blog.fc2.com/)

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