20120803

これは悲劇じゃない、喜劇だ、いやファースだ――Kobo騒動に対する雑感


kobo Touch――7月の電子書籍市場はこの話題一色だったといってよいだろう。さまざまな角度から語り尽くされた感もあるKoboの電子書籍サービスだが、ここで一度振り返ってみたい。

[西尾泰三,ITmedia]

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1208/02/news041.html

月19日に発売された楽天の電子書籍リーダー「kobo Touch」。7月2日に行われた発表会の後からずっと、7月の電子書籍市場はこの話題一色だったといってよいだろう。

 この種の端末としては異例ともいえるテレビCMなどのプロモーションも大々的に行われ、すでに10万台を突破したとされる販売台数だけをみれば、それまで電子書籍に興味のなかった層にも訴求したという意味で大きなインパクトがあったのは間違いない。しかし一方で、発売直後のトラブルもまた、大きなつめあとを残した。

 発売後のトラブルというのは、主に初期設定の問題。端末を利用可能にするためにアクティベーションと呼ばれる認証の作業を行う必要があるが、ここでトラブルが続出したのだ。これらは現在ではほぼ改善されており、改めて語る必要もないだろう。詳しく知りたい方は、「楽天『kobo Touch』のスタートダッシュと今後を考える」あるいはその後楽天の執行役員が語った「『大きなミスを犯してしまった』――楽天koboに何が起きたのか」などに当時の状況が詳しく語られているので、それらを参照してほしい。

 「日本語特有の問題」を事前に潰せなかったとはいえ、ネットワークの増強、アプリケーションの修正、書影の変更、さまざまな領域で起こってしまった問題の解消に努めた楽天。kobo Touchについて辛辣な言葉が並ぶレビューを非公開にしたことは、不要な混乱を避けるため、というのが大義名分で、これについては今後も議論が別れるだろうが、全体的にはかなりのスピードで改善されていった。

増えない、日本語タイトルのラインアップ


8月2日時点でも2万2278点。3万点とは何だったのか
 初期に起こった一連の問題は、そのほとんどが改善されたといってよいだろう。しかし、コンテンツのラインアップ、特に日本語タイトルのラインアップの進ちょくはどうにも説明が付かない問題を抱えたままだ。

 kobo Touchの発売前、日本語タイトルは3万点を用意するとしていた。3万点というラインアップは先行する他の電子書店、例えばシャープのGALAPAGOS STOREはすでに7万点を超えているし、ソニーのReader Storeも6万点を超えているので、それらと比べると見劣りする数字ではある。

 しかし、フォーマットにまだ十分に枯れていないEPUB 3を全面採用した英断、そしてそれに伴う変換作業などが発生することを考えれば、オープン時にこれだけの数をそろえられるなら、楽天の事業スピードは相当なものだといえただろう。だが、そうはならなかった。

 kobo Touchが発売された7月19日時点の日本語タイトルは1万8894点。内訳はともかく、3万点には大きく届かない数字だった。発売後に行われた上述のインタビューでは「7月中には必ず、3万タイトルに到達します」(楽天デジタルコンテンツ推進室の本間毅執行役員)とされていただけに一縷の望みもあった。

 しかし、待てど暮らせどタイトルは増えない。月が変わって8月1日の日本語タイトルラインアップは2万2278点で、ここに至って筆者は痛烈な喪失感を覚えた。同日には日本経済新聞が三木谷氏へのインタビューを掲載しているが、「毎日、1000点くらい増えていて、7月末までには合計3万点弱、8月末で6万点までいく予定」とここでも改めて強調しているが、結果的にトップの言葉はネット上にむなしく響いたことになる。

 ここで100歩譲って、「7月末までには合計3万点」などの数字が、出版社との契約が終わりEPUBの変換やチェックを行っているタイトルの総数、つまりストアに並んでいる実数を指すものでないのなら、恐らくはその通りなのだろう。しかし、だれがそう読み解けるだろうか。また、ユーザーの手の届かないところの話をしてどんな意味があるというのか。これは悲劇じゃない、喜劇だ、いやファース(茶番)だ――太宰治の「グッド・バイ」の一節が頭をよぎる。

 ただ、こうした指摘も楽天からすると「細かいこと」の範疇に入るのだろう。少ないラインアップでも相当の売り上げとなっていると主張し、「出版社は喜んでいる」とすらしている。実際、Koboに膨大な数のタイトルを供給するある大手出版社幹部は、eBook USERの取材に答え、売り上げの詳細なレポートを楽天からもらってないと前置きした上で、「確かに売れているが、びっくりするほどではない」とKoboでの販売状況を語ってくれたことは参考情報としてここに書いておいてもよいだろう。

 日本語タイトルのラインアップが見劣りするとしても、10万台超という出荷台数に後押しされ、実際にかなりのユーザーが電子書籍を購入しているのなら、事業としてはまずまずで、ラインアップも逐次対応していけばよいという判断なのだろう。ただ、ミスリードを誘うような発言はユーザーの不信につながらないかと、上述のレビュー非公開の一件と合わせて心配になる部分ではある。

 一週間ほどkobo Touchを常用してみて、Wi-Fi接続がスムーズではないことがあったり、タッチの反応が期待するものとギャップがあったり、細かなところで気になる部分は多い。ただ、そうした目の肥えたユーザーは絶対数からすれば恐らく少数派で、kobo Touchが最初の一台なら、「なるほど電子ペーパーベースの端末というのはこういうものか」という結論に落ち着くのだろう。EPUBビューワとしては悪くないので、今後サービスの使い勝手が良くなれば、常用できるかもしれない。

 先ほど「痛烈な喪失感」という言葉を用いたが、かといって絶望しているわけではないというのが筆者のKoboに対する印象だ。なぜなら今後、Androidアプリなどもリリースされるだろうし、現時点ではなぜか閲覧の機能が無効にされているデスクトップアプリ(kobo Desktop)でも電子書籍を読めるようになるだろう。kobo Touch以外でKoboのサービスを使えるなら、そちらをメインに使えばよいと考えを切り替えることができる。そこで重要になるのはサービスの使い勝手だ。今のスピード感で改善が進むなら……という淡い期待とともに今後の楽天koboを見守っていきたい。

 

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